エッセイ集/アーキタイプ(物語の原型)

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010 アーキタイプ(物語の原型)

児西清義 2007.2.15

先にエッセイNo.008「物語と知識地図」を書いたが、ふっと確かめる必要を感じて編集工学研究所、松岡正剛氏の「知の編集工学(朝日文庫)」をひもといてみた。シンデレラのバリエーションの数が気になったのである。やはり間違っていた。松岡さんのこの「知の編集工学」の中には、「・・・世界中にシンデレラの物語が800以上も研究者によって採集されていて、たとえば日本の信濃川の流域ですら約75種類ものシンデレラ・バージョンが伝承されていたということは、どうだろう?・・・(238頁)」という記述がある。

やはり生半可な知識で文章を書くのはよくない。ということで今回は物語の原型(アーキタイプ)に関して、権威者である松岡氏の著述をひもといてみたわけである。松岡氏は、国内の物語研究に関するネットワークの中心にいる人物である。この書物、第五章の二節は「物語の秘密」というタイトルで、彼の物語論の中核をなす考え方が述べてある。次のくだりは物語のアーキタイプについて非常にわかりやすい説明になっているので引用させていただく。

おそらく物語には遺伝子ならぬ「物語の母型」のようなものがいくつかあったのだ。それがいくつあるのかは、いま編集工学があきらかにしつつあるけれど、きっと世界中の物語の多くが、この「物語の母型」を前提に広まっていったと考えられる。私はこの母型のことを〈マザー〉とよぶことにした。正確には「ナラティブ・マザー」ということである。

先年亡くなったアメリカのとびぬけた神話学者ジョセフ・牛ャンベルが『干の顔をもつ英雄』『神の仮面』そのほかで、世界中の英雄伝説を調べあげて結論を出したのも、そういう世界的に分布する母型機能の分析に関するものだった。牛ャンベルは、世界の大半の英雄伝説がひとつの〈マザー〉をもっていることをつきとめ、その構造が、「セパレーション」(出発)、「イニシエーション」(試練)、「リターン」(帰還)という三段階の物語構造をもっていることをあきらかにした。

たしかに、私たちがよく知っている桃太郎や一寸法師や浦島太郎などの物語も、まず意外な出発点があり、次に未知の国への旅立ちがあって、その途中でさまざまな試練に会い、そこでいろいろな同伴者やヒントをえながら、やがて目標を達成すると、その国にとどまることを勧められ、しかし、最後には決然と故郷の国に戻っていくという物語順序をもっている。

そればかりか、西部劇の『シェーン』も日本の『男はつらいよ』も、『クロコダイル・ダンディ』や『座頭市』も『木枯し紋次郎』も似たようなものなのだ。たとえばフーテンの寅さんは、毎回、美しい乙姫に会い、そこにとどまることを勧められ、そして袖を振りきってかえってくる柴又の浦島太郎なのである。(以上で引用の終わり)

この説明の後に続くパラグラフで、物語のアーキタイプと松岡さんの提唱する編集工学との本質的な関係が述べてある。しかしテーマからは離れていくので引用はここでとどめる。この書物では、物語の原型(アーキタイプ)は、母型(マザー)とも鋳型(モールド)とも呼ばれている。また、後述のように元型の字も使われることもある。

ついでにデザイナーと呼ばれる職業の人達がアーキタイプをどのようにとらえているのかも興味があるので調べてみた。以下は、「Design Rule Index デザイン、新100の法則」(著者 William Lidwell、Kritina Holden、Jill Butler、小竹由香里、株式会社バベル訳)から引用させていただく。

元型は、神話の主題(例:死と再生)、文学作品の登場人物(例:英雄と悪漢)、夢の中のイメージなどに見られる。人類の進化の過程で、脳内に「組み込まれた」無意識の心的傾向や気質から生み出されたものだと信じられている。こうした生来の心的傾向や気質は無意識のものであるため、長期にわたって多くの文化に共通のパターンが現れた場合、それが元型ということになる。デザインに通った元型を見極め、それをデザインにマッチさせれば、成功する確率は高くなるだろう。

中略

形・機能から製品名・ブランド名まで、デザインのあらゆる面において元型的なテーマや形態を考えてみることだ。元型は無意識のレベルや、主として情緒的レベルでの認識(作用)に影響を及ぼすので、伝統的なコミュニケーションの方法(例:言語)が使えない時には特に有効である。ただし、特定の元型に対する反応は、文化が異なると違ってくる可能性があることに注意する必要がある。したがって、元型を用いる前に、ターゲットとなる人々の反応を調査すべきである。(以上、引用終わり)

コンサルタントとして、知識地図を使うシナリオプランニングを行っている。このシナリオの中に、繰り返し現れる変化のパターンがあることを物語の原型になぞらえて説明した。ところがその内容に誤りがあったので修正しようとして、アーキタイプに深入りしそうになってしまった。デザインルールブックの、「脳内に組み込まれた無意識の心的傾向や気質から生み出されたもの」がアーキタイプという説明は何となくわかりやすい。情報科学の近くでこのテーマに取り組んでいる先生方もいる。北海道大学の田中譲教授や同じく北海道大学の原口誠教授たちである。興味のある方は、これら先生方の活動をフォローしてみることをお勧めする。

シナリオプランニングで何度も繰り返される変化のパターンは、このような人類の進化の過程に絡むような根源的なものではない。多分、経営学の対象である競争戦略、市場の構造、技術革新、競合するプレイヤーたちの性格、・・・等々の力学的なダイナミズムによって決まるものではないかと思っている。



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Last-modified: Wed, 31 Oct 2007 09:45:24 JST (3982d)
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