エッセイ集/物語と知識地図

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008 物語と知識地図

児西清義 2007.1.31

物語を紡ぎ出す

知識地図をもとにシナリオを紡ぎ出す。この表現をよく使う。知識地図とは、簡単には、「数多くのばらばらで断片的な事実(テキスト)をある文脈のもとに関連づけて地図のように表現したもの」である。この地図をもとにシナリオを紡ぎ出すとは、その地図から想起される物語を時系列に展開することである。地図から想記される物語をどのように時系列に展開していくのか、その方法はさておき、ここでは物語とシナリオをテーマに少し考える。

もう一つの物語

物語には、起承転結のような基本的な構造がある。個別の物語はその構造の具体例である。ところがある状況のなかで可能な物語が複数個あることに注目すると、物語が複数の具体例に枝分かれする分岐点があることに気づく。桃太郎というおとぎ話について、桃太郎が鬼ヶ島で負けてしまうというオプションもあり得るのである。つまり一つの状況を前提にして可能な未来の姿は一つではなく複数あることになる。シナリオプランニングでいうシナリオも物語である。つまり想定される未来にどのような経路で至るのかを物語のように記述するものがシナリオである。そのシナリオのフィージビリティを評価し、他のオプションがあるか等を考察して、何をすればいいのかを考える。特に最近のように先の見えない時代にあっては、シナリオプランニングは企業あるいは組織が、起こり得る未来の変化に対応できるようにすることを目的にしているといっていい。組織の構成員が未来へのシナリオと組織の戦略を明確に意識し情報を共有する。そして常に周囲の環境をウオッチし当初の想定から変化の方向が変われば自分たちの進む方向を変更できるようにする。これがシナリオプランニングの基本である。そして桃太郎が鬼ヶ島で負けることもあることをきちんと意識しておくことが大切だ。シナリオプランニングの文脈で言えば、このようにもう一つの物語に変化するポイント・分岐点を意識しながら進むことだ。

物語の原型

キャンベルや松岡正剛氏の物語論の中心には物語の原型というアイディアがある。物語には原型と呼ばれるパターンがあり、多くの物語が同じ原型を出発点とする変形になっているという考えである。たとえば、世界中にシンデレラ物語の変形が100以上もあるという。英雄の旅物語もこの原型の一つである。英雄は住み慣れた世界や人々と別れて旅に出る(セパレーション)。旅の中で多くの試練にあう(イニシエーション)。そしてその後、新たな人格としてもといた世界に帰還する(リターン)。英雄の旅物語はこの3つの部分から構成される。物語の原型は、アーキタイプとも呼ばれているが、興味深いテーマだ。物語の原型を集めて利用可能にすることにより、物語貧困の時代を再び豊かな想像力に満ちた世界にすることはできないか。このような視点からも物語や物語の原型が研究されているという。しかし、人は物語の原型をどのように認識するのか。オデッセイアのような長編叙事詩と数十頁の短編小説が同じ原型のバリエーションであることを理解するのは容易ではない。同じ構造、同じ原型からなっていることを認識し理解する仕組みはどのようになっているのか。どうもこれは知能の不思議の中心部に近づくテーマのようだ。しかし、どのような原型があるのかを知っていれば、物語の読み方も変わってくるのではないか。この高度なパターン認識も容易になるのではないかという気がする。

シナリオと変化のパターン

シナリオプランニングでは、どうか。たとえば家電業界が次の5年間にどのような変化にみまわれることになるのか。あるいは、最近よく話題になる2007年問題に例をとると、2007年から定年退職を始める団塊の世代はどのような生活をしていくのか。彼らの消費行動はどのようになるのか等々。これらがシナリオプランニングで考える典型的なテーマである。物語の原型とのアナロジーでいえば、技術・産業・生活・社会におきる変化に共通するパターンはあるのかということになる。英雄伝説やシンデレラ物語ほど心躍るロマンチシズムはないが、変化には繰り返されるパターンがある。こう考えてもいいのではないかと思っている。このように考えながら知識地図から想起されるシナリオを眺めると英雄物語とおなじように今までで見えなかった変化が読めるようになってくるのではないかと思う。



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Last-modified: Wed, 31 Oct 2007 06:22:52 JST (4035d)
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