連載物語/アイディア官庁 (1.2)

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わが旅、次世代コンピュータ

第1編 第五世代への旅

第1章 新しい産業政策を

  • アイディア官庁 (1-2)

郵政省のように現業をもっている官庁を現業官庁という。この場合、郵便局が現業を実行する組織である。一方、通産省のように現業組織を持たない官庁を政策官庁という。このような官庁が、なにかの施策を実行する一手段として、関連団体がある。財団法人や社団法人などである。また、法律によって組織がつくられる場合もある。そのような組織を特殊法人という。たとえば、児西は光ファイバーを使ったCATVの開発とその普及を図るのが仕事になった。ところがその実務をおこなう組織として、財団法人がある。結局のところ担当官は、このような関連団体の管理をするのが日常の業務になる。したがって、日々の仕事は自分の関連する団体の役員や実務家とあって、打合わせをしたり、指示を出すことだ。このような団体が行なう事業の資金は、国家予算であったり、ある種の民間資金である。このような関連団体の人々が、役人のスタッフとして機能する。新政策の立案に役に立ちそうな種々の提案をする。しかし、役人の方も知識欲が旺盛で方々に人脈を広げて、情報を仕入れアイディアを出すよう努力する。

このための一つのスタイルが勉強会だ。これも関連団体が実施する調査研究プロジェクトのしくみを活用してその研究会に参加することも多い。そのような場では、各界の有識者に講師を依頼し、活発な議論をする。問題点を明確にして、政策を構想する。提言もまとめる。児西も、着任早々から、誘われて多くの勉強会に参加する。光情報産業に関する調査研究、データベース産業に関する調査研究、社会システムに関する調査研究、等など。このような研究会はほとんど、夕食後の夜に開かれる。かくして、よけいに夜型の生活になっていく。別に研究会が組織されていなくても、通産省の役人が会いたいといえば大抵の人は会ってくれる。会えばそこで新しい知識を吸収する。人脈は役人のスタッフの役割を果たし、個人の財産でもある。普通の会社では、かかってきた電話を取り上げた人は、相手の名前を確認して、「誰々さんから電話です」と取り次ぐようにしつけられる。ここでは、電話の相手は個人的なスタッフであることもあるので、名前を確認したり、名前を告げたりしないで取り次ぐ。

一般に、すでに予算がついている進行中のプロジェクトをかかえてそのお守りをするよりも、新しい政策を打ち出す方を好むというのが通産省の風土であるので、新しい企画をするための勉強にはよけいに熱心になる。通産省のこのような風土と役人の気質を知っているので、何かアイディアがある人は、誰かの紹介で会いにくる。通産官僚の行動力をもってすれば、面白く話しが進展することがあるのを知っているのだ。たとえば、神戸ポートアイランドを香港と同じように自由港にする。関税を撤廃して、海外からの商品を安く買えるショッピングパラダイスにしようというのだ。それに加えて、様々な法規制をゆるやかにして、生活情報システムなどの社会システムの実験場にする。そこでは、CATVをつかって、電話サービスも可能にする。という思い切った発想の提案もある。このような提案の場合には、三宅技術班長と、神戸に出張し、市役所と意見を交換し、ポートアイランドの見学をするくらいの行動は起こす。

うまくいけば、アイディアは関連団体の事業に組み入れられる可能性もあるのだ。しかし、そのアイディアたるや千差万別だ。ソーラーハウスや海洋牧場などはまともだが、光のとどかない深海に光ファイバーを使ってエネルギーを送り、対流を起こして、……、などと続いてくると児西にはついていけなくなる。農業関係も面白い。ある日、知人の紹介である人物に会う。 ……、 「それで、パリーに行ったとき、あるバイオファームの見学中にわざとハンカチを落としたのです」 「というと、…」 「つまり、そのハンカチには、そのファームで使っている秘密の胞子が付着しているはずです」 「……、」 「その胞子を使って、バイオマスの実験をしようと計画しています」 「うーん」 話題を徐々にそらしていく。オーディオという、共通の趣味があることを知る。彼の場合にはオーディオよりは、音楽が趣味のようだ。しばらく話がはずむ。児西と同様に平面バッフルを使っているという。ただし、やはり児西よりは発想が飛躍している。彼のバッフルは天井全体を使っているという。それで畳に寝転がって、グレゴリオ讃歌を聞くという。うーむ。

このようにさまざまな方法で新しいアイディアを仕込むが、ただ漫然と目標もなく、勉強会をしたり仕込みをするのではない。毎年、五月、六月ころになると翌年度の新政策の議論を始める。年度が始まったばかりであるが、大蔵省に対する翌年度予算の概算要求が八月末に締め切られるのでこのような早い時機から検討がはじまるのだ。所属する課が特定の業界の育成をしているのであれば、その業界から要望を聞いて、新政策を提案するということももちろん多い。しかし、一般的には、この六月はアイディアのコンペが行われるような雰囲気がある。このため、多忙な日々の中でも、何とか時間をみつけては、知識の吸収と人脈の維持、そしてアイディアをみがくという生活を送ることになる。

(2005.10.26)



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Last-modified: Tue, 30 Oct 2007 11:24:34 JST (3832d)
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