連載物語/研究開発組織をどう作るか(2.7)

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わが旅、次世代コンピュータ

第1編 第五世代への旅

第2章 船乗りを集め、地図をつくる

研究開発組織をどう作るか(2.7)

中野総括班長からの引き継ぎ

中央官庁の役人は短ければ一年で、普通は二年ほどで異動する。児西が出向してきた1978年度は中野にとって電子政策課二年目の年であった。このため委員会がスタートする1979年度には、中野はいなくなることは児西も覚悟していた。年があけ、1979年になると、仕事をしている中野のまわりにもその雰囲気が漂い始めている。やがて中野は工業技術院総務課の総括班長になって異動することになる。結局のところ、児西は中野とは委員会の人選をし、委員会の進め方の意識あわせを行っただけで別れることになった。しかし、児西は中野がこのプロジェクトにかける意気込みを引継ぎ、児西として夢をふくらませていく。中野は工業技術院での任期は短く、一年後にはニューヨークのJETRO次長になって米国に赴任する。このため、79年度から1982年のICOT設立までの間に起こったプロジェクトのエキセントリックでセンセーショナルな展開は日本に帰国するまであまり知らないまま過ごすことになる。

工業技術院への異動が決まった時に児西が中野に聞く。「四月から始める委員会で二年間をかけて準備をします。初年度に目標を定義し、第二年度に研究開発のプログラムを決めます。第三年度には大蔵予算で組織を発足させます。この組織について、中野さんのアイディアはありますか」このやりとりはいわば口頭の引き継ぎである。「ちょっと待ってくれ」中野は児西のことばを受けて万年筆で何か絵をかいている。「こんなのはどうかな」と言いながらメモを渡す。渡されたメモを見て児西は思わずうなる。中野はいつものはにかんだような笑みを浮かべている。メモの中には、組織は特殊法人にする。第五世代コンピュータ開発機構、この機構に参加するのは、電電公社、国産メインフレーマ、そして驚くのはIBMもその体制に組み入れるとある。うーん。児西は密かに電電公社のコンピュータ(DIPS)と通産省のMシリーズの統合を考えている。ところが中野は、DIPSとMシリーズばかりではなくIBMとも手を組んで統合して行こうと考えている。この発想には中野の特性がよく表れている。大胆であり、スケールの大きさを感じさせる。

しかし、児西の中に違和感が生じたことも事実である。児西は、IBMを向こうにまわして戦いを挑むことに生きがいを感じている。戦う相手がエスタブリッシュメントであればあるほど心が躍るのが児西である。このメモをじっと見たあと中野に対して、「じっくり考えてみます」という曖昧な返事をしただけで終わりにする。児西の違和感だけの問題ではない。いま決めることではないのだ。児西が考えた手順に従って委員会で議論し、目標を設定して後に考えることだ。その目標に応じてふさわしい実行組織の姿が見えてくるに違いない。着地点の体制を決めて、そこを意識して委員会の議論を誘導するのではなく、委員会での自由な議論とディベート、非ノイマンのスローガンによる独創と革新に期待する。議論に期待し、走りながら考える。これが児西流である。

後年、スタンフォード大学のファイゲンバウム教授が著した「The Rise of the Expert Company」の中で教授は児西のことを次のように紹介している。Mr. Konishi, one of the young and bold MITI planners who conceived the Fifth Generation project (now planner for NTT) 、この書物はTBSブリタニカから「エキスパートカンパニー」として翻訳出版されるが、この「young and bold」のくだりは「若くて大胆な」と翻訳される。確かにこの頃の児西は、議論に期待するという純粋さと、未知のものに賭ける大胆さをもっていた。若さの特権であったかもしれない。このやり取りの後、中野は続ける。「ともかく、予算は十分につけたので委員の先生方とも楽しみながら進めてくれ。後は君にまかせる」こう言って中野は去っていく。

児西に「非ノイマン」のアイディアをインプットし、後はまかせると言って去った中野正孝。上前淳一郎が取材し著した、第五世代プロジェクトの物語り「ジャパニーズドリーム」がベストセラーになる。この上前淳一郎の取材で発掘される中野と非ノイマンというアイディアとの出会いは中野伝説となる。この伝説は通産省内に生き続け、この例外的な長期プロジェクトを見守り続けていくことになる。



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Last-modified: Tue, 30 Oct 2007 11:24:35 JST (3888d)
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