連載物語/石井威望、綾日天彦 (2.2.4)

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わが旅、次世代コンピュータ

第1編 第五世代への旅

第2章 船乗りを集め、地図をつくる

  • 七人の侍を集める (2.2)
  • 石井威望、綾日天彦 (2.2.4)

石井威望

石井威望教授を東大工学部に訊ねる。上條氏からの紹介があったこと。今から始めようとしているプロジェクトについて、概略の説明をする。石井教授は、「うーん、上條さんからの紹介。困った、私はコンピュータ・アーキテクチャの専門家なんぞではないぞ」と言いながら、少し考える。しかし、すぐにあの早口でしゃべり始める。

「現在のコンピュータ利用は、事務的な利用のレベルである。しかし、いずれ文化人類学レベルに達するはずだ。いや、そうならなければ駄目だ。本来の情報システムは、漢字タイプライタやワードプロセッシングのような形で生活に浸透しなければならない。その意味で現在のコンピュータは文化レベルでの遅れが目立つ。この為には、漢字の問題をきちんと解決するというのが課題だ。……、地球上の人口40億のうち、漢字を使う人口は10億もいる。漢字による情報システムのブレークスルーを目指すべきだ」「VLSI技術の可能性を考えると、現在のマイクロコンピュータはまだ過渡的な段階にある。この可能性を考えると、CPUとその他の周辺機器とのコストのアンバランスがもっと大きな問題になる。たとえば、電源につなぐコードやテーブルタップのほうがCPUより高くつくようになる。

しかし、マイクロコンピュータの可能性は大きいので、ともかくこれを使わせるという発想が大切だ。この為に基本的に必要なことは、人間を訓練することである。NC工にAPTを使わせる。PRをする。これも大切、……」「発想の転換も必要だ。コンピュータの世界でも、スモール・イズ・ビューティフル。スロー・イズ・ビューティフル。こういう考え方で進めて新しいものは出てくるのではないか。……」「マイクロコンピュータの課題はニーズの発掘だ。目標を発見するためのプロジェクトというのも面白い」……、

このような調子で語る。教授の頭の中には、機械工学と製造業の視点からコンピュータの役割に対して、はっきりとしたビジョンがある様子だ。しかも、「文化人類学レベル…」という発想は面白い。第五世代の委員会が始まり、唐津一率いる社会環境分科会の議論の中から「日本語マシン」というキャッチコピーが出てくる。これはコンピュータを欧米におけるタイプライタと同じレベルで日本でも使われるようにしたいという発想である。また、児西が「地図」の中にキーワードとして潜ませる「情報ライフスタイル」という言葉も、情報と人々の生活との関わり合いを一つの視点にしたいという発想からであった。そこにつながる言葉でもある。パソコンが普及し、ネットワークでつながれ、モバイルが普及する現在は情報と個人、情報と社会、情報と産業を、まさに文化人類学的な視点で研究すべき時期に来ている。残念ながら、石井教授には第五世代の体制に入っていただくことにはならなかったが示唆に富む、印象に残る面会であった。

綾日天彦

児西は、綾日天彦に会う。綾日天彦は自分の経験を語り始める。彼は、三井造船で船の設計に長年IBMマシンを使っている。IBMマシンとは初期のマシン、7090の時代からの付き合いだ。メーカの言いなりになるのがいやで、技術予測に興味をもち、技術予測を実際に行って研究開発の参考にしたこともあるという。IBMマシンでは、システム360の時代になっても、造船設計のような応用では、処理速度が遅くて使いものにならない。そこでFACOM230の小型マシンを四台IBMメインフレームのサテライトとして接続して分散処理を始めた。FACOM230側のOSを改造したりして接続したので実現までに約一年半の時間がかかったが、昭和45年ころからSNAのはしりのような分散処理システムを稼動させている。この経験をもとにグラフィック・ディスプレイ・システムを自力開発した。このグラフィック・ディスプレイは商品化する予定だ。コンピュータの本体はメインフレーマのように体力がなければ開発できないが、グラフィック・ディスプレイのような装置になると応用のノウハウを持っているエンジニアリング会社でもいい商品を開発できる。実際、三井造船はビットスライスのバイポーラチップでプロセッサを構成するグラフィック・ディスプレイを開発している。

綾は児西に米国空軍のICAMプロジェクト、NASAのIPADプロジェクトなどの様子を話す。日本でも国家プロジェクトを米国のように、もっと問題解決中心にシフトする必要があるだろう。これが綾日天彦の主張である。この話で分かるように単にIBMマシンをユーザとして知り尽くしているというだけではない。エンジニアリングの応用をきちんと実現するには、コンピュータの仕組みがどのように変化しなければならないかということを実務家として知っているのだ。しかも、国家プロジェクトのあり方にも一家言をもっている。

児西は綾の話をじっくり聞きながら、エンジニアリング応用を代表する立場で第五世代の体制に参加していただくことをこころに決めている。つぎはビジネス分野の応用の達人を探す。


                


          




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Last-modified: Tue, 30 Oct 2007 11:24:36 JST (3888d)
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