連載物語/相磯教授、元岡教授との出会い (2.5)

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わが旅、次世代コンピュータ

第1編 第五世代への旅

第2章 船乗りを集め、地図をつくる

相磯教授、元岡教授との出会い (2.5)

相磯教授を慶応大学、日吉の工学部キャンパスに訪問する。通産省が企画しているプロジェクトについて、簡単に説明する。委員会の中にアーキテクチャを研究する分科会を設置する旨を話して、主査をお願いし、了解いただく。相磯教授に非ノイマンについて質問する。

ラディカルな話が聞けるかと思っていた児西に対して、相磯教授は、アーキテクチャの研究がなぜ必要なのか、その意味から解きほぐして説明する。順を追って説明する内容は児西にとっても大学の講義を聴くようなものであり、立ち止まって自分の考え方を振り返るちょうどよい機会であった。単にコストパフォーマンスを向上させるだけなら、VLSIにするだけでいい。しかし、アーキテクチャからでなければ根本的な解決につながらない応用がある。人工知能のような応用がその例である。また、ソフトウェアの生産性にもアーキテクチャレベルで解決すべき課題も多い。相磯教授のこれらの指摘を聞いて、児西は自分のアプローチが間違っていないと確信する。相磯教授には、分科会にメーカから参加してもらう委員の人選をお願いして、日吉キャンパスを辞す。

さて、ついに外堀、内堀が埋まったので、東大工学部の元岡教授に電話をしてアポイントをとる。元岡教授に委員長を了解いただければ、児西の考える体制は完成する。地下鉄千代田線の根津駅からゆるやかな坂道を登って東大工学部電気工学科に元岡教授を訪問する。元岡教授には、本委員会の配下に三つの分科会やワーキンググループを設置すること、それぞれの分科会主査を含む委員の候補者名をあげながらプロジェクトの構想を説明する。

元岡教授は、ゆったりとうなずきながら児西の説明を聞いていたが、「ところで児西さん、このプロジェクトで非ノイマンということにこだわりますか」という質問が最初の発言であった。児西はまったく予想していなかったこの質問におどろくが、考えてみれば、あれだけ多くの人々とコンタクトし、準備を進めているのであるから元岡教授の耳に児西のうわさが入っているのは当然かもしれない。しかし、困った。ここで下手にがんばって元岡教授に委員長を断られては大変だ。今までの準備を無駄にするわけにはいかない。児西はリズミカルに頭を回転させる。児西がこだわるのは、社会環境を予測し、基礎理論に立ち返って可能性を探り、最新の研究成果を反映するアーキテクチャを構築するということだ。この考え方にしたがって進めれば、自然に非ノイマンと結びつくはずだ。また、こだわらないということは、別に非ノイマンを否定するということではない。委員会の結論が非ノイマンになればいい。委員会を始めてしまえばラディカルに進める自信はある。ここまで頭を回転させると「いえ、こだわりません」とさらりと言ってのける。元岡教授は、ゆっくりとうなずきながら、「分かりました。委員長を引き受けましょう」と応える。

元岡教授の包み込むような雰囲気の中で、児西は別に自分自身を裏切ったという気持ちにはなっていない。この教授は非ノイマンも含めて取り込んでしまう広がりをもっていると感じている。ラディカルな若者をも、別にまゆをひそめることもなく包み込む雰囲気を教授はもっている。元岡教授は、きっと若者と議論するのが好きなのに違いない。初対面の元岡教授から、児西はこのように感じている。ICOT設立以降も続く元岡委員長との付き合いの中で児西はこの第一印象は間違っていなかったことを知る。

このやり取りの後は、元岡教授のコンピュータアーキテクチャに関する考え方をうかがった。技術的なテーマになると元岡教授も楽しそうな表情でゆっくりと時間をかけて自分の考えを説明する。この説明をノートにメモを取りながら児西は聞いている。説明される内容をメモしながらも、そしてその内容を理解しながら聞いているのであるが、なにか別の声も聞いているという不思議な感覚がある。この感覚は相磯教授と話したときにも、渕一博と話したときにも、ちらと感じたものである。パイオニアの系譜に連なるひとびとに共通の雰囲気なのか。それとも別の何かなのか。電総研の若手研究者と出会って、児西が感じるのはいわば共感であり、同じ世代の若者に共通する革新の心のようなものである。それとは違うこの感覚の先にあるものは何なのか、単純に何なのかを特定できるものではないよう気がするが、児西の感受性はそれを探り当てようとしている。



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Last-modified: Tue, 30 Oct 2007 11:24:36 JST (4005d)
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