連載物語/地図で表現する (1.6)

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わが旅、次世代コンピュータ

第1編 第五世代への旅

第1章 新しい産業政策を

  • 地図で表現する (1.6)

ある日、中野総括班長がいう。「児西君、ハイオービスについて、雑誌に記事を書いて欲しいという依頼があるので、あす、雑誌社の社長に会って欲しい」。ハイオービスというのは、児西が担当しているCATVシステムの名前だ。このシステムは、光ファイバーを使って関西のある地域に実験的に敷設してある。家庭のTV端末から、CATVのセンタ、これはスタジオのあるコミュニティ・センタでもあるが、そこにリクエストを出せば任意の番組をみることができるシステムだ。後年、ビデオ・オン・ディマンドと呼ばれるシステムの原形のようなものである。最近、このシステムがサービスを開始したのでセレモニーを行ったところだ。河本通産大臣が、セレモニーで挨拶をする。大臣の挨拶は、そのシステムにふさわしく遠隔からおこなった。大臣は東京からマイクロ回線を経由してテレビの画面上で現地の人々に挨拶をしたのだ。この挨拶の原稿は児西が書いている。

この雑誌は、電電に近い月刊誌だが、ハイオービスがサービスを開始したので原稿を頼みにきたらしい。児西は、たまたま、データ通信本部にいるときに、その出版社に行ったことがある。中野と児西は、飯野ビルのレストランでその社長と食事をする。「……、という趣旨の特集なので、ぜひ記事をお願いしたいのです。ところで、このXXをご存知でしょうか」と手元にもってきていた雑誌数冊を二人にみせる。「知っていますよ。以前、バックナンバーを買うために、御社にお邪魔したことがあります。神田で電車を降りて、そこで電話で場所を確認してビルの近くまでいったのですが、なかなかそのビルがみつからない。仕方がないので、ある細長い、ひゅろひょろとした建物の前に赤電話があったので、そこで再度、電話をしたのです。すると、その細長いビルが目当てのビルだったんです。確か、その3階にオフィスがあったのでは、エレベータもなく、階段を上っていくビル」と児西がいう。中野が、吹き出しながら、「児西君、君はこの人のことをお褒め申し上げているのかね」と言う。「いやいや、なんだか冷や汗が出てきました。おかげさまで発行部数も伸びて、数年前に新しいオフィスに移っています。今では、入り口に自動ドアのあるビルです」と社長はハンカチをだして額を拭いている。

ハイオービスを紹介するこの記事の中で、児西は通産省が社会システムを開発する背景を独特の図を使って説明する。割り当てられた紙数が少ないので、多くのことを語るには二次元の地図のようなダイアグラムで表現する方が都合よかったのだ。この「地図」が、そのハイオービスを進めている財団法人の人々の話題になった。テレビ局、CXからその財団にきているI氏がいう。「児西さん、この地図の右上。家族の機能の中に、「性と愛情」、「生殖と養育」とありますね」「さすがにタフな児西さんらしく、これでもか、これでもかという調子で書き込んでいますね。これはP10を意識しているんでしょう」という。ハイオービスのモデルになった双方向のCATVが米国、オハイオ州コロンバスにある。P10とは、このCATVのアダルトチャネルの番号である。CATV事業を検討している人々には通じる隠語である。CX系列の人々は、みずからを第四次産業と称して、豊かな発想の持ち主が多い。「違う、違うよ。」と児西はあわてて否定する。「それに、この地図で表現した内容は、多分に能書き的で自分でも気に入ってはいない。だけど本音の部分もある。例えば、インタレストを共有する少数グループが多く発生するというくだりは、いずれこのように世の中は変化すると考えている」、「第四次産業の言葉に翻訳すると、テレビの多チャネル化」、「それだけではなく、ネットワークもそうなる。人々の生活もきっと、そうなる」、「ところで、この地図で四隅にあるキーワード。社会、経済、情報・物流、人間、という四つの軸はどのようにして決めるのです」、「説明したいテーマに応じて自由に考える。見る人が、なるほどと思えばそれでいい」……、 こんな調子で、会話が弾む。

社会システム.gif

図1 ↑クリックして拡大

電子政策課でも、中野がこの地図を見て、「児西君の頭の中は、なんだかユニークな仕組みになっているようだな」、「それとも表現方法がユニークなのか」と笑いながらいう。先日の社長の冷や汗を思い出して笑っているようだ。「文章でいちいち書いていては、とても紙面に収まりませんから。二次元の図にすると人間の頭は、全体を眺めて、並列に処理をして理解するのです。コンピュータと違って」児西が応える。例の非ノイマンに引っかけている。これに反応して、中野はいつもの、はにかんだような笑いをやめる。何か考え始めたようだ。

児西の方も、自分の机にもどり「地図」で表現することの意味を考えはじめる。地図、あるいはこのようなダイアグラムは、多くのことを語るが、その図を見る人がそれをどのように理解するかまでは規定しない。一般的な地図の場合には、等高線など、さまざまな記号が約束事として決めてある。しかし、このような図の場合には、説明で理解を誘導することはできる。しかし、図だけでは、理解の仕方までは強制しない。逆に、人々は自分が興味をもっている部分に反応する。つまり、地図に対する反応を見ればその人が何を考えているのかを知ることができる。

次年度から始まる第五世代の委員会の場で、児西はグラフィカルなプリゼンテーションを多用する。委員会における意思決定の過程でも、地図やダイアグラムと人々の反応について、おもしろい経験をすることになる。



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Last-modified: Tue, 30 Oct 2007 11:24:37 JST (4065d)
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