連載物語/電総研研究者との出会い (2.3.3)

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わが旅、次世代コンピュータ

第1編 第五世代への旅

第2章 船乗りを集め、地図をつくる

研究者を集める (2.3)

  • 電総研研究者との出会い (2.3.3)

JECCでの勉強会は、いつもアフターファイブである。JECCの会議室に集まって弁当を食べながら雑談をし、食べ終わってから始める。この勉強会は、4、5回開催した。児西は担当官ということで、いつも真ん中の席で説明を聞くという形式だ。集まったメンバは、古川康一、横井俊夫、内田俊一、ほかに国分明男や諏訪基。また、テーマに応じて渕が適当に人を入れ替えて進める。電子政策課のとなり、電子機器電機課の石崎俊も参加する。彼は、電総研から機情局に出向してきている。

各自が日ごろ研究しているテーマを順番に発表していく。古川が「知識データベース」について発表。まだ、この時期には古川も知識ベースという言葉は使っていない。内田は「本格的なマルチプロセッサ方式」について説明するといったぐあいだ。児西のバックグラウンドはメインフレームコンピュータのソフトウェアであるので、人工知能に近い世界の話題はみな勉強になる。知識を吸収するチャンスだ。しかし、渕を中心に基礎理論の分科会を組織するつもりなので、どのような人が周りにいて、誰をどのような役割で体制を固めればいいかを知る必要がある。これを知ることも勉強会の目的の一つだ。

まず、児西が気づいたのは、非ノイマンというキャッチコピーや基礎理論の成果をコンピュータの仕組みに反映するということに関して、電総研の若手研究者はみな前向きで情熱的だということである。この熱気を委員会の体制の中でいかす仕組みを考えれば、メーカを中心とする保守的な勢力に対抗できるのではないか。これに対する答えとして、児西は、基礎理論研究分科会の配下に、4つのワーキンググループを設置して電総研の若手を巻き込んでいくことにする。

また、児西が気づくのは、みな個性的な研究者達であるということだ。資料を用意して、それに沿って説明する。用意する資料もまちまちのスタイル、簡単なメモもあれば論文のコピーもある。電電公社であれば、資料の形式から、資料番号の付与のしかたまで統一してから始める。この勉強会に参加したメンバは、自分の研究テーマについては、情熱的ではあるが、これらを総合してシステムに組み上げるというセンスの研究者はほとんどいない。大学の教授を指向するタイプの研究者ばかりのようだ。組織力を誇る電電公社の通信研究所とまったく反対の文化である。

この勉強会のメンバの多くが第五世代コンピュータを開発する研究所(ICOT)の設立以後もプロジェクトに係わることになる。多くの人はICOTを起点とする研究ネットワークにつながる形でプロジェクトに参加する。しかし、ICOTに出向することになる「電総研の三羽がらす」の印象は以下のようであった。古川の場合には、淡々と説明し、はったりが全然ない。このため迫力に欠けるし、こんな内容を機械情報産業局の役人は理解できるのかしらと考えているのではないかと思えるほど淡白な説明ぶりである。古川もこの勉強会があのセンセーショナルな展開の後に、ICOTという研究所に組織されるなど夢にも思っていなかった一人に違いない。しかし、思想的には、渕にもっとも近いのではないかという印象だ。実際のところ、ICOTが設立され、研究開発の内容が公表されたときには、渕一博のプロジェクトでもあるとともに、古川のプロジェクトでもあるのではないかという意見もあったくらいである。

横井は、非ノイマンというキャッチフレーズにもっともラディカルに反応した。アジテーターとしての資質も兼ね備えている。熱弁が頼もしい。しかし、好不調の波があり渕もそれを心配している。児西と同様のロマンと行動の気質があり、後年フィリッピンまで足を伸ばして現地の情報処理の振興に貢献する。同じころには、児西は米国のテキサスを中心に活動する。二人に共通するのは、行動し、走る。そして収束よりは発散に向かう傾向である。

この中では、内田俊一だけがシステム的なセンスを持っているように見える。勉強会でも、分かりにくい内容を児西のバックグラウンドに合わせて説明する柔軟性を見せるし、彼が用意した数種類の資料は、右上がマーカで色分けしてある。そのカラーで資料をポイントしながら手際よく説明していく。また、生意気盛りの児西の特性をもっともよく理解した上で児西の活動を支えてプロジェクトの成立に貢献する。実行予算がつき研究開発を実行する組織ができれば、メーカや通研からも人を集めることになるから大丈夫として、計画を纏める段階ではどうするか心配であった。結局のところ、システム的なセンスのある内田俊一と事務局の共同作業になりそうだという児西の予感は的中することになる。

児西は、この勉強会をとおして渕一博をとりまく研究者達を知ることができた。渕より少し若い層の田村浩一郎や田中穂積。この二人はJECC勉強会とは別に渕が児西に紹介する。永田町の電総研からわざわざふたりを伴って電子政策課に渕の方からやって来る。この時の様子は渕組みの二人の番頭に児西の面通しをするという雰囲気があり、電子政策課のソファーで顔合わせをするが、話しをしたのは渕と児西が中心で田村と田中は児西をものめずらしそうに観察していた。この二人に続く古川康一、横井俊夫、内田俊一の三羽がらす。これらの人々と児西の付き合いはその後長く続くことになる。田村はその真摯な外見からは想像がつかないほどユーモアとウイットにとむ人物でICOTを側面から支える。田中もクールに多少は距離をおきながらも、ICOTの周辺で行われた自然言語処理のプロジェクトに貢献する。横井はプロジェクトの途中で、ICOTをスピンオフして電子化辞書研究所を設立して所長になる。内田は渕一博の後任としてICOTの所長になって、プロジェクトの仕上げという激務の時期をこなすばかりではなく、技術の普及と促進にも貢献する。古川は最後まで自分のペースをまもり、何事も起きなかったかのような顔をして静かに大学の教授におさまっている。



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Last-modified: Tue, 30 Oct 2007 11:24:37 JST (4005d)
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